いつもの子供ゲームの紹介とは違いますが、ひとつ古いゲームの話を書きます。
私の住んでいる静岡市の隣、焼津市には浜通りと呼ばれる界隈があります。
今は普通の民家が多いですが、その昔は「サカナヤ」と呼ばれた、水産関係業の個人商店や工場の建ち並ぶ場所でした。
荒っぽくも活気ある町であったのでしょう、今もこの一帯には荒々しい言葉遣いの方言が残っています。
そのような方言を収集した本が、たまたま私の職場に寄贈されて、読む機会がありました。読み進めると、「ゴチョン」という言葉が収録されていて、「将棋の歩ゴマ5枚を用いた賭博で昔は盛んに遊ばれた。」とあるではないですか。
それほど親しまれていたローカルゲームが埋もれていたとは聞き捨てならない。
というわけで、何とか著者の連絡先を調べて、詳しい話を伺いました。
ゴチョンは将棋の「歩」を5枚用いた回り将棋のようなゲームで、専ら賭博に用いられていました。
戦前、焼津のサカナヤの間で盛んに遊ばれていて、特に、浜通りに軒を連ねていたカブト屋(生利節屋)に好まれ、毎晩のように縁側などへ博打好きが集まってはゴチョンに興じる姿が見られていました。
賭博の盛り上がりは大層なもので、喧噪に嫌気の差した近所の住人が警察に密告して騒ぎになったことさえありました。
なお、この界隈にいた子供達も回り将棋で遊ぶことはあったが、それは「金」を4枚用いるもので、ゴチョンとは異なるものでした。
ゴチョンはあくまでも大人の賭博遊びだったのです。
何と著者は御年93歳(!)、それも、まさしくこの浜通りの生利節屋の出でしたが、ゴチョンについては子供の頃に大人が遊ぶのを垣間見た程度で、当時の者が全員亡くなってしまった今となっては、どのようなルールであったか知る者はいないでしょうということでした。
誠に残念です。
ここに出来る限りの情報を書き残し、ゴチョンの墓標とします。